芸人コラ息子 〜倉元幸二〜

暗い。とにかく暗いのである。大川豊興業所属の「倉元幸二」は。
僕が初めて見たのは「すっとこどっこい神戸版」と言うライブ。大川興業が東京で行っていたマンスリーライブの神戸出張版。

そこでピン芸人の倉元さんを見た。暗い。そしてテンションが低い。江頭2:50を100%とするなら2%くらい。うつむき加減でボソボソ喋る。

そのテンションで淡々と喋る。日常を語っているとふとボケのセリフが出る。直線しかなかった道にわかりづらい横道が出てきたような。その横道に入ってしまえばもうそこは倉元ワールド。オチまでその迷路から出る事はない。迷い込んでいる時は迷路とも思ってない。

公式プロフィールに「特技 友達ができない」 趣味「孤立」大川興業に入る時の面接では何十分か部屋に入って一言も喋らなかったそうだ。

大川興業総裁の大川豊も「芸人としてどうなりたいのかわからない」と述べている。芸人活動までもが淡々としている。

そして倉元幸二は極端に仕事が少ない。

まぁ売れてない若手芸人はそんなもの 

と思われるかもしれないがそうではない。

例えば同じ事務所の「三平×2」と言う先輩はコンビ活動の傍ら「アニメ会」と言うオタク芸人ユニットを結成したり西口プロレスにレスラーとして参戦したり週刊少年チャンピョンの巻末ハガキ投稿コーナーの連載をしたりともはや本業が何かわからないくらい活動している。

一方倉元幸二大川興業に入って9年。ほとんど所属の大川興業主催のライブ「すっとこどっこい」にしか出演していない。 いやモチロン営業なんかも出てるだろうし関西に住んでる僕には知らない仕事もたくさんあるだろう。しかし一番大川興業のライブレポートが充実してる「幕臣の部屋」というページの倉元さんの仕事履歴を見るとほとんど大川のライブにしか出ていない。

ここまで淡々としているのである。淡々とネタを作り 飄々ト発表し 9年が過ぎた。途中トリオになったりコンビも組んだが長続きしていない。

客として見てても確かにつかめない。しかし倉元幸二はいつもいつも大川興業のライブにいて そしてネタをして。

僕は倉元幸二と芸風が被っているピン芸人を見た事がない。最近などはハガキ職人のようなネタ作りでキャラを作るのが売れる近道となっている。 やはり芸人なのだからステージではあべこうじのように明るく振舞っている。

しかし倉元幸二は暗い。コントで暗い役を演じるピン芸人はいる。しかしここまで舞台に立っていて負のオーラを出しているピン芸人を僕は知らない。

ほんとうにただ暗い人が 淡々と喋り その喋ってる日常が静かに壊れていく そんな漫談を出来るのは倉元幸二しかいないのである。

神戸のライブで彼が笑顔で登場してきた時会場には軽くどよめきが起こった。そして彼は言った「どうも〜愛想笑いで〜す」 爆笑 そして後はいつもの無表情に戻り淡々と。 ほんとうに9年間 倉元幸二は舞台の上で何をも演じる事なく ただ倉元幸二であった。

しかし2005年7月。9年目にして大川興業主催ライブ「すっとこどっこい」で初優勝をする。そしてその後の対決コーナーでも同じく大川興業俺のバカを倒しこのライブで一番上の地位「一本ネタ」にまで登りつめた。

9年

そしてその舞台上で倉元幸二は笑顔だった。作り笑いか自然な笑顔なのかわからないけれど初めて舞台で笑顔が長く続いた。

2005年10月まで一本ネタコーナーを防衛中。 




倉元幸二は今日も多分無表情で淡々と語っている。世の中を 冷めた視点で見つめながら。